【対談 製薬企業社員×薬学生】患者の声に向き合い薬を開発‐医療への貢献を実感

2018年7月1日 (日)

薬学生新聞

ファイザー市販後調査
企画マネジメント部長
鈴木 由美子さん

対談 製薬企業社員×薬学生

 製薬企業での仕事と聞くと、真っ先に「創薬研究」を連想する人が多いと思います。しかし、基礎研究の成果が新薬として患者さんへと還元されるまでには長い道のりがあります。今回は開発段階とその先の新薬が発売された後にも注目し、外資系製薬企業であるファイザーの市販後調査企画マネジメント部で部長を務めていらっしゃる鈴木由美子さんにインタビューを行いました(日本薬学生連盟2018年度広報統括理事=明治薬科大学2年・岩崎良太 武蔵野大学4年・安次嶺栄智 明治薬科大学2年・中尾美波)

 ――鈴木さんのプロフィールについて簡単に教えてください。

 私は20年ほど前に薬学部を卒業しました。当時の薬学部は4年制でしたが、大学を卒業してから大学院に進学し、2年間の修士課程を修了した後、ファイザーに就職しました。開発部門の中でさまざまな業務とポジションを経験して、現在に至っています。仕事を経験していくうちに、博士号を取得しようと思い立って大学院にも進みました。社会人ドクターコースで薬学博士号も取得しました。

 当時の4年制薬学部では、目標は“薬剤師になること”が、結構明確だったと思います。ですので、薬学の道に進むことを選択した高校生の段階では、薬剤師になるつもりでいました。薬剤師の仕事をよく理解していなかったと思いますが、「将来は病院で勤務する薬剤師になるのかなあ」という漠然としたイメージで薬学部に入学しましたね。

 大学に入ってからは、授業でいろいろなことを学んだり、病院などに実習に行ったりしているうちに、研究に対して興味を強く持つようになり、卒業後は大学院に進学しようと決めました。大学院では多くの方との出会いのなかで、製薬企業に就職した先輩からいろいろな話を聞かせていただいたのですが、そこで「製薬企業の開発職が面白そうだな」と感じたのが、現在の仕事を志すきっかけとなったと思います。

 ――学生時代、印象に残ったことについて教えてください。

 大学院に進んで研究室に所属していた時のことが印象に残っています。大学院では研究室にいる時間が学部生に比べると長かったのですが、その場にいるだけでも情報が入ってくるような環境がありました。研究室には、先輩や業者さん、他大学の方など、いろいろな人が出入りしていたので、そこでネットワークが広がって、多くの方からお話を聞く機会が結構増えました。

 そのようにして得た情報から、開発職への興味が深まり、自分でも情報収集をするようになりました。自分が興味を持った開発職に関する情報を、研究室の教授や様々な人から教えてもらえる環境を作っていたというのが良かったのかなと、今では思います。

 ――数ある製薬企業の中で、ファイザーに入社された理由を教えてください。

 就職活動をする時期になって、大学の就職委員を務めていた、自分が所属する研究室の教授にファイザーの人事担当者が訪ねて来られました。その中で、ファイザーが開発職を募集しているという話があり、教授から「挑戦してみては?」という助言をもらいました。それならば、ぜひ受けてみようと思い就職試験に挑んだという経緯でした。ただ、「何が何でもファイザーに絶対に入りたい!」という感じではなかったのですが、今思えば縁があって入社できたのだと思います。

 就職するに当たって選ぶ会社としては、最初から外資系企業を考えていました。今はそうでもないのかもしれませんが、当時はなかなか女性が大学院の修士課程を修了して、国内企業に就職できるという雰囲気ではなかったように思います。その点で、国内企業よりも外資系企業のほうが、社風が大らかだと聞いていたこと、もう一つは将来性があると考えたことが外資系企業を選んだ理由です。

 当時、国内ではファイザーより上位の会社が十数社あるような状況でした。しかし海外での規模、パイプラインなどから興味深いいくつかの会社を見つけ、その中にファイザーがありました。ただ、まさか現在のように世界ナンバーワンの会社になるとは思ってはいませんでした。

承認後に感謝の手紙

 ――入社されて、開発部門の中ではどのようなお仕事を経験されたのでしょうか。

 私が最初に携わった仕事は、臨床試験のオペレーションのうち、臨床開発モニター(CRA)と呼ばれるもので、医療機関を訪問し治験を依頼することや、その医療機関で治験が適切に実施されているかどうかのモニタリング、症例報告書に書かれたデータを確認・回収するなどの仕事をしていました。その後は、モニターを統括するスタディーマネージャーという業務も経験しました。

 さらに、臨床試験のデザインを考えて、企画する“クリニカルリード”という業務にも携わりました。クリニカルリードをしていた時期は、臨床試験のデザインを考えた上で、集まってきたデータを評価して承認申請に必要な資料をまとめたりする作業もしました。

 監査という独立した立場で臨床試験が適切に実施されているかどうかを見て、指摘する仕事にも関わりましたし、その他にプロジェクトマネージャーという仕事もしました。臨床試験を順番に実施していくと期間がとても長くなってしまいますので、薬剤開発全体のイメージを見て、「この試験とこの試験を同時にやれば大丈夫」というように最適化するなど、多様な角度から薬剤開発の計画全体を考えてマネジメントするのが、その役割です。

 ――開発部門の業務に携わる魅力について教えてください。

開発職の仕事について話す鈴木さん

開発職の仕事について話す鈴木さん

 何と言ってもこの仕事は、「患者さんのために貢献できるんだ!」ということを実感できることが最大の魅力だと思います。患者さんと直接話したりする機会があるわけではないですが、自分が開発に携わっている治験薬の効果があった時、医師が「すごく喜んでいたよ!」と患者さんの声を届けてくれるんです。そういう声を直接いただけると、涙が出るくらい嬉しいですね。その他にも、「この薬はいつ発売されるのですか?」「早く承認されてほしい」という患者さんの生の声を医師から聞いたりすると、社会に貢献できているという実感を持つことができます。

 また海外では承認されているものの、日本では未承認の薬などもあります。こういったケースでは、会社を訪問して「ぜひ開発をお願いします」と直接声を伝えに来られる患者さんもいます。そんな中、開発が実現し、無事承認された時には患者さんから感謝のお手紙が届いたりすることがあるんです。そういったことには、とてもやりがいを感じますね。

 ただ、様々な新薬へのご要望がある一方で、製薬企業は会社ですから、利益も追求しなければいけないことも現実です。そのため、全てのご要望に対応することが難しいという局面も時としてあります。

市販後も製品のデータを収集‐より安全・有効な使い方を提示

 ――現在の市販後調査企画マネジメント部での仕事について教えてください。

 市販後調査とは、市販後の医薬品の安全性・有効性を確認する仕事になります。承認前からデータを作る臨床試験とは違い、市販後に、医師が患者さんに医薬品を処方した際のありのままのデータを回収してくることになります。臨床試験では、法律に基づくGCPという規則に則ってプロトコール(治験実施計画書)が規定されていて、臨床試験に参加できる患者さんにも組み入れ基準という条件がありますし、また「この通りに投与してください」と厳密に方法が定められており、その通りに進めていくわけです。

 一方、市販後では患者さんが臨床試験のように予定された来院日に通院されないようなケースや、投与量なども変わることもあります。添付文書に記載された内容に従って医師が薬を処方して、実際に通院される患者さんの様子を見ていく部分のデータ収集が市販後調査と言えます。

 ――市販後調査に関わる魅力について教えてください。

対談 製薬企業社員×薬学生

 添付文書には適応症や用法用量などの適正に使用するための情報が記載されていますが、患者さんの背景によっては安全性などの観点から、添付文書の記載通りに薬剤が処方されないケースもあります。そこで、私たちの仕事として、市販後に医薬品が実臨床下でどのような使い方をされ、その結果起こっていることの情報をありのままに集め、「臨床試験で認められた医薬品の有効性・安全性は実臨床下でも同じように認められているのか」「何か問題はないのか」などを確認し、必要に応じて会社として医師に「こういうことには気を付けてください」とメッセージを発信すべきかどうかなどを検討します。市販後のデータから、添付文書が改訂されることはよくあります。

 限られた症例数の中から実際に世の中に新薬が出て、その後もデータ収集をして、いろいろと分析や議論を重ねていく中で、医師や薬剤師などの医療関係者に対して追加のエビデンスを提供したり、追加のメッセージを発信したりすることで、エンドユーザーである患者さんに貢献し続けていけることが魅力だと思います。

 ――外資系企業ということで、日々の業務の中で英語を使う頻度はどのくらいあるのですか?

 もちろん最近はファイザーだけではなく、製薬企業・内資外資を問わずグローバル化していますので、英語は勉強しておいた方が良いと思います。皆さんのキャリアを考えた場合、英語の基礎力があれば、グローバルで活躍できる可能性が広がりますね。

 基礎力という観点で言えば、学生さんが学ぶ英語で十分だと思います。伝えたいことが話せるようなレベルでまずは大丈夫だと思います。ファイザーにも英語を母国語としない人がたくさんいるわけですが、いろいろな人とコミュニケーションするための共通言語としてのツールが英語であるということにすぎません。

 そうすると、みんなで分かりやすい英語表現を選んで話すようになりますから、それほど難しく考える必要はないのかなと思います。英語を上達させるのには、自分の好きなものに関連付けるのがいいのではないでしょうか。聞いた英語をそのまま口に出す「シャドーイング」や、英語を聞きながら聞こえてくる英語を一語一句残らず書き取る「ディクテーション」を行うとスキルがグンと上がると思います。自分の発音が拙いからといって恥ずかしがる必要はありません。正確な発音もそうですが、自分の伝えたいことをちゃんと言えることはとても大切です。また、スマホアプリなど、語学を学べる機会はあふれています。

 もっとも、私が一番語学力を向上させた時期は、上司がアメリカ人になった時ですから、使わざるを得ない状況に追い込まれたら自然と話せるようになると思いますね(笑)

「考えること」を止めないで

 ――最後に、薬学生へメッセージをお願いします。

対談を終えて

対談を終えて

 学生生活は楽しいですよ。十分に満喫してください。何でも一生懸命やっておくと、きっといい思い出になります。会社を辞めて大学に入り直す人だっているし、やりたいことをやるのに早いとか遅いとかそういうことはありません。あの時やっておけば良かったではなくて、「やってみよう」とポジティブに考えて思い立ったら行動してみるといいですよ。

 薬学部が6年制になって、即戦力を養成しようと実践的なカリキュラムが増えていると感じます。しかし、基礎の教育はそんなに変わっていないのかなとも思います。6年制になったという意味では知識も増えていて、実技も増えているわけなので、4年制の当時と比べてアドバンテージはあるのではないかと思います。

 あと、どのような道に進んだ後でも、「考えること」を止めないで下さい。社会人になると学ぶことばかりで、仕事は経験を積むことである程度はできるようになりきます。しかし、現状に満足して、そのまま考えることを止めてしまうと、学生時代のように教えられたことをそのままやる状態になってしまいます。自分の成長がそこで止まってしまうんです。「なぜだろう」「どうしてこの方法なのだろう」「もっといい方法はないのか」と自分に問いかけたり、考えたりする訓練は学生のうちにしておくと、将来にもつながるし、社会に出て自分から提案できるようになったりしますので、きっと役に立ちます。ぜひ充実した学生生活を送って下さい。



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