キャリア・ポジション社長
西鶴 智香
この連載では「薬剤師の職業使命とは何か」というテーマを皆さんに投げかけてきました。皆さんが自分なりにどのような回答を出すことができたか、機会があれば教えて頂きたいと思うのですが、皆さんが薬学部を卒業して薬剤師になる前に、この「薬剤師の職業使命」について再認識してもらいたいと思っています。
以前もお伝えしましたが、私は、薬学部のキャリアデザイン講義や薬剤師対象の職員研修で、「薬剤師の職業使命とは何か」を度々問うています。その返答として、「疑義照会して正しく調剤すること」「減薬をすること」「患者に安心、安全な薬を飲んでもらうこと」などが挙がることにとても不満を感じています。挙がった回答はいずれも、「使命を達成するための行為」を指すものばかりだからです。
そのような行為によって達成すべき薬剤師の職業使命とは、「患者を薬で治す」ことです。
市販薬や医療用医薬品で患者を治す、そしてどちらの手段が適切なのか、その選択をするのも薬剤師の仕事です。どうやったら治せるのか、その根拠を得るために6年かけて薬に関するあらゆる知識と技能を学ぶのでしょう。薬剤師は病院や薬局で、効果が見込めそうにない薬を漫然と渡さず、必要に応じて処方変更を打診し、症状が治まれば薬を止める。薬を服用しなくても治る方法があるなら、それを伝えるべきでしょう。薬剤師は、患者の治療において非常に重要な役割を担っています。
さて、薬剤師の綱領には「薬剤師は広く薬事衛生をつかさどる専門職としてその職能を発揮し、国民の健康増進に寄与する社会的責務を担う」とあります。薬の専門家としての知識を以て、自律して任務を行う職業であるにも関わらず、薬剤師が時に「患者より営利の追求を優先させる所属会社からの指示」や「処方医からの一方的な要求」を黙認しながら働いていることに疑問を感じます。
今こそ原点に戻り、職業使命と職業倫理を再度自覚すべきではないかと考えています。大学卒業後、薬剤師として就職し働き始めてから、患者より医師や会社を優先する状況を見聞きしても、決して染まらないで下さい。常に職業使命を意識し、仕事に挑むことを期待しています。