病院や薬局など医療現場におけるチーム医療の中で薬剤師が職能を発揮して役割を果たすためには、薬学6年間で学修した各科目の知識を横断的に活用して、個々の患者さんのサポートに活かしていくことが求められます。例えば、糖尿病の患者さんをサポートするためには、糖代謝(生物)、血糖降下薬の作用機序(薬理)、血糖値やHbA1cなど検査値(病態・薬物治療)、シックデイの対応(実務)など多くの知識が必要になります。そのため、近年の薬剤師国家試験では科目の壁を超えた問題など「総合的な力」や「考える力」を必要とする出題が多く見られます。最新の第106回国試を引用して、以下で紹介します。
実践問題での出題例(薬理と実務をつなげる)
■第106回薬剤師国家試験 問264~265
本問は、免疫関連事象(irAE)に関する問題です。薬理では薬物の作用機序から想定される副作用を考え、実務ではその副作用への対策を提案する力が求められています。ただ作用機序を覚えるだけでなく、それがどのように患者へ影響を与えるのかを、考えられるようにしましょう。
<解答>5(問264)
<解答>5(問265)
横断的なアプローチ(薬理から実務へ)
今回の例題は、T細胞を活性化するニボルマブの副作用として、潰瘍性大腸炎を起こしてしまったという症例問題です。免疫機能が高まることで潰瘍性大腸炎が起こっていることを推定できると、その対処方法に免疫抑制作用や抗炎症作用を有する糖質コルチコイドの投与が有効であると考えることができます。
この例題以外でも、薬理では、「患者の症状から問題点を把握し、作用機序を考えて、適した治療薬の選択を行う」といった臨床への応用力が求められています。さらに、副作用に関する症例問題では、その副作用の原因を作用機序から推定し、対応方法を提案する力が求められています。
このように、薬理学的視点を持って症例問題を解くことを心がけることで、問題解決能力を養うことができるはずです。
実践問題での出題例(病態と実務をつなげる)
■第106回薬剤師国家試験 問290~291
本問は薬剤性間質性肺炎に関する問題です。症例の検査項目より患者に生じている副作用を推測し、その対処法について考える必要があります。そのため、副作用をただ暗記するのではなく、それぞれの副作用でどのような検査所見が認められ、それに対してどのような処置が行われるのかを確認しておくことが重要です。
<解答>2、4(問290)
<解答>1、2(問291)
横断的なアプローチ(病態と実務をつなげる)
近年の国試では、検査値や症候から疾患を推測し、解答を導く問題が増加しています。そのため、各疾患に特徴的な検査所見や症状を理解しておくことはとても重要です。特に、薬剤により生じる副作用について、現場で遭遇する可能性が高いものに関しては、特徴的な所見やその対処法に関して理解しましょう。
勉強法としては、実務などで副作用に触れた際に、副作用として発現した疾患がどのような疾患なのかを病態で学修し、その対処に用いられる薬物の薬理作用を薬理学で学修するなど、つながりをもって考えることができるようにしましょう。
実践問題での出題例(法規・制度・倫理と実務をつなげる)
■第106回薬剤師国家試験 問322~323
法規・制度にのっとった上で実務があり、実務上の必要性の変化から法規・制度が改正されるという流れが従来から繰り返されてきました。近年の国試では、法規と実務の壁はなくなりつつあり、「法規の知識で解く実務」や「実務の知識で解く法規」の出題があります。
本問は、「実務の知識で解く法規」の問題であり、法規と実務の壁を考えずに薬剤師として必要な知識をもってアプローチする必要があります。
<解答>1、3(問322)
<解答>1、5(問323)
横断的なアプローチ(法規・制度・倫理と実務をつなげる)
前述したように、法規と実務の壁はあってないようなものです。今回紹介した設問以外にも例えば、コミュニケーション技法(問い方、座り位置)、倫理的規範(〇〇宣言など)、麻薬や向精神薬などの管理薬の取扱い(保管、事故、廃棄など)等が法規・制度・倫理または実務の双方で同様の内容が出題されています。
法規を学べば実務も修得でき、実務を学べば法規を修得できるので、ぜひ相乗効果があることを念頭に学修を進めてください。
なお、双方の学修をする際には、「法規とは最低限守るべきもの」として線引きをし、「実務は現場・患者の目線にたって運用されるもの」と考えてもらうと、稀に遭遇する「法規では〇〇だが、実務的には□□」という内容にも納得できることが増えると思いますので、意識してみると良いでしょう。
【訂正】
記事初出時、薬剤師国家試験の問題で、問290~291の解答の横に記載した「問266」「問267」は、それぞれ「問290」「問291」の誤りでした。問題および解答には訂正はございません。お詫びして訂正します。