【日本薬学生連盟】進路選択「現場を見ることが大事」‐奈良セントラル病院薬剤部勤務 仁宮勇人さんに聞く

2024年11月15日 (金)

薬学生新聞

奈良セントラル病院薬剤部勤務 仁宮勇人さん
(城西大学薬学部2018年3月卒業)

仁宮勇人さん

 日本薬学生連盟広報部は、回復期病院で活躍する先輩薬剤師、仁宮勇人さん(奈良セントラル病院薬剤部長)に進路選択に関するお話をうかがいました。塚本有咲(大阪医科薬科大学薬学部3年生)、萩原希光(北里大学薬学部3年生)が聞き手となり、自身の体験や就職した当時と現在の想いについて語っていただきました。原稿は塚本と庄司春菜(東京薬科大学薬学部2年生)が執筆しました。

実務実習を機に病院志望

 ――病院への就職を選んだきっかけについて教えてください。

 大学5年次に実務実習を経験したことが大きなきっかけです。目の前の一人ひとりの患者さんにとって本当に必要な薬を提案できるような仕事をしたいと思い、病院薬剤師を目指しました。

 私は学生時代、日本薬学生連盟で、全力で活動に取り組んでいました。団体で一緒に活動しお世話になった先輩から、病院薬剤師と薬局薬剤師の両方の役割をこなせるハイブリッド薬剤師をやれる人材を探している、と誘っていただいたことをきっかけに、現在の病院への就職を決断しました。

 病院と薬局が共に人手不足だったため、平日の9時から17時までは病院薬剤師として働き、それ以外の時間や土日は薬局の薬剤師として働きました。

 ――薬剤部長に就任することになった経緯をお聞きしたいです。

 そもそも薬剤部長の後任がおらず病院が困っていた状態だったので、就職した時点から薬剤部長に数年以内に就任することを想定していました。当時の薬剤部長の先生から一年でも早く知識や技能を学び取って引き継げるよう、仕事に励んでいました。

 そのため、薬剤部長に就任したらどのような薬剤部にしたいか、どのように病院を引っ張っていくかといったことを日々考えるようにしていました。

 ――学生時代に思い描いていたキャリアプランはどのようなものでしたか。

 実務実習をきっかけに病院志望になるまでは、企業就職、特にMRになろうと考えていました。製薬企業はもちろんですが、商社や証券会社などの他の業界でも多くの薬剤師が活躍しており、そういう進路に私も進むものだと思っていました。

 実習の際、病院のドラッグインフォメーション(DI)室という医薬品情報を取り扱う部門の部屋に、あらゆる企業のMRさんが薬の営業に来ていました。それも何十人と列を成している程でした。私はチャンスだと思って頼み込み、MRさんが営業をする様子を隣で見せてもらっていました。実習期間中毎日やらせていただいたので、営業される側の立場で何百人ものMRさんの営業の仕方を実際に見るという経験を、学生時代にすることができました。

 その経験があったからこそ、MRになると薬剤師目線で自社と他社の薬の善し悪しが分かってしまうが故に、最善の選択肢を提案したくても、MRとして自社の利益を追求しなければならないジレンマに陥りやすいと気づきました。その部分で私は自分がやりたいこととの相違を感じ、結果的に病院就職を考えるようになりました。

 皆さん進路に関して色々悩むと思いますが、自分で納得感をもってキャリアを選択するには、物事に徹底的に取り組み、そして現場を実際に見ることがとても大事だと思います。

 ――就活までにやっておいた方が良いことはありますか。

 好奇心を持ち、学生の時から色々な方の話を聞いて面白い情報を持っている人とつながっておくことです。学生の立場という強みを生かして、恥をかくことを恐れずに自分から進んで話を聞きにいくことが大事です。私は実習中もいろんな方の所に行ってはたくさん質問をして、顔を覚えてもらっていました。

 また様々な薬剤師の方々と会って、理想の薬剤師像や見識の幅を学生時代に広げておくのが良いです。そして様々な人と上手に関わることができるような、コミュニケーションの引き出しをたくさん持っていると良いと思います。私自身は学生時代に色々な活動をした経験が生きたと感じました。

処方の再設計にやりがい‐中小病院は医師と距離近い

 ――回復期病院の薬剤師として働くことのやりがいにはどんなことがありますか。

 患者さんに関わる最後の病院薬剤師として、処方の再設計をするところです。

 回復期病院は、急性期病院を退院したものの直ぐに自宅で普通に生活するのは難しい患者さんが、リハビリを行って自宅に帰ることができるようにするという機能を持っている病院です。患者さんが自宅に戻るまでの最後の段階で関わる病院薬剤師となるため、私たちの役割は薬局へのバトンを渡すことであり、そこに大きな価値があると考えています。

 例えば、以前一時的に症状が出ていたため処方されていた鎮痛薬や鎮咳薬、抗アレルギー薬などが現在も継続して処方されていたり、処方意図の不明なビタミン剤が長期にわたって出されていたりといったように、現在は必要性の低い薬をDo処方で継続して飲んでいる患者さんは結構多いです。これらの処方を再設計して、患者さんに本当に必要な薬のみに整理した情報を、患者さんが退院後に通うことになる薬局に伝えられるようにします。

 処方の見直しは薬局で行うこともできますが、病院であれば医師や看護師などの医療従事者がすぐ近くにいて、もし万が一、薬を変更した後に体調に変化があったとしても、直ぐに評価することができるため、病院の方がより安全に行えると考えられます。

 ――中小規模の病院の良さや大規模な病院との違いについて教えてください。

 大病院では比較的様々な症例、特に希少難治性疾患と呼ばれる患者数が5万人未満の患者さんなどに医療従事者が本気で向き合っていて、そういった症例をたくさん見る経験ができるのは大病院の特徴です。

 その一方で、専門性が高い故に薬剤師による処方介入の機会は多いとは言えず、日常的にベッドサイドで薬剤師による処方提案ができる環境かと言われれば、そのようなところはまだまだ少ないと感じています。

 中小病院では、急性期的治療を終えて、より安定した状態の患者さんが多いために、勤務している医師の数がそもそも少なく、専門分野にも偏りがあります。そのため医師の非専門領域の薬で分からないことがあれば、薬剤師が相談相手に選ばれることが多く、とても頼られます。そういった意味で当院のような中小病院では、病棟担当薬剤師と医師が患者さんの処方を相談しながら回診することも少なくありません。

 したがって、病院を比較する場合は、病床数と機能を参考にすると良いです。幅広い分野の症例を学ぶことや専門性を磨くことよりも、処方提案の機会が多いところで働きたいと思う方には、薬剤師と医師の距離が近い中小病院も選択肢に入れてみると良いと思います。

自分で考える人が求められる

 ――病院薬剤師の需要は今後どうなっていくとお考えになりますか。

 これまで薬剤師がメインでやってきた薬に関する情報の伝達や薬の取り揃えといったような対物業務は、ほとんどAIやロボットで置き換わっていくと考えられます。しかし患者さんという人間を相手にしている以上、思うように治療が進まないことや、時には患者さんの意思を尊重する形で標準的な治療を行わないという判断もあります。そのような臨機応変さや、患者さんに寄り添った対応はAIにはまだ難しいです。そういう意味で今後は、正しくテクノロジーを理解し、使う側の立場で、人間にしかできない仕事をする病院薬剤師は求められ続けると思います。

 ――最後に薬学生にメッセージをお願いします。

 これからは薬のプロフェッションとして患者に寄り添い、自分の頭で物事を考え、それを実践していける人が病院薬剤師に求められてくると思います。

 自分で環境を変えていくことも大事です。どんなに良いことをやりたいと思っても、ミスマッチが起こっていたり環境が悪かったりするとできないことがあります。たくさん悩んで考え抜いた末に自分で進路を選び、最善の努力をした結果だとしてもうまくいかないこともやはりあります。たとえそうなってもそこで腐らずに、そして人のせいにせずに、自分自身で環境を変えてください。

 私は薬剤部長に就任してから、薬剤師はもっと病棟の患者さんの傍にいるべきだと思ったので、薬剤師の雇用を増やしました。医師や看護師などの他職種も巻き込んで、薬剤師は病棟には当たり前に必要と感じてもらう雰囲気にしていくことで、病棟業務をしやすい仕組みを作りました。

 活躍する場所をそもそも変えるということだけでなく、多様な場や人をつなぐことで、今いる環境を自分自身で作り変えていくことも大事です。



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