薬学生にとってMRは魅力的な職業か。薬学出身でMR経験もあるMR認定センターの小日向強事務局長に聞いた。SNSではMRを巡るネガティブな情報、印象も出ているが、その点を率直に質問し、答えてもらった。
医師らと課題に向き合う
――薬学生からのMRへの就職割合は低下傾向にあり、2%前後。MRの仕事は魅力的に映っているのか。
ある大学の薬学生の1年生を対象にMRの仕事について講義し、レポートを書いてもらったところ、MRのことをご存じだったのは3割くらいという印象だった。ご家族、親戚にMRがいる学生でも、営業職、接待、ノルマといった印象を持ち、MRの資質を認定する制度の存在や実臨床への貢献まではあまり認識されていないようだった。
2022年に実施したわれわれの調査では、医師も薬剤師も9割がMRとの面会に価値を見出している(「やや価値がある」の回答含む)。
大学側でもMRの仕事を広めてほしいと思ったところだ。
――医薬品情報提供はAIに代わられることはないか。MRの存在価値は。
薬学生からの反応では、AIの登場で人(MR)が情報提供する価値が下がると回答してきた学生は少なくなかった。その一方で人が、医療従事者が抱えている課題、ニーズを把握し、的確な情報提供する人の役割は変わらないとの回答も少なくなかった。AIは真偽を問わず一定の回答を与えてくれるが、人と人の対話はそういうものではなく、インタラクションが生まれるものであり、MRの存在価値は変わらないと考えている。
――24年は製薬企業での希望退職者募集も相次いたが。
かつて6万人いたMRは、22年と23年は5万人を下回ったが、MRの数の多さとMRの価値とは関係はない。
企業間で似たような生活習慣病薬が多く発売され、そのシェア争いが激しく、「SOV(シェア・オブ・ボイス)」と呼ばれる人海戦術で自社の製品名を多くの医療従事者に知ってもらい、採用、処方を獲得し、シェアの拡大につなげることに力が注がれた時期は確かにあった。
しかし今は、抗癌剤でも遺伝子のタイプによって適応が細かく決められていたり、希少疾患であったりして、専門性が高く、競合も少ない。使用施設も患者も多くはないため、多くのMRを要しない。むしろより高い資質を持つMRが求められている。
適応疾患の患者さんの病態はシビアなケースもある。その中でMRは、医薬品そのものの価値を適切に伝えるとともに、治療にあたる医師ら医療従事者の抱える課題に向き合いながら、課題に共に取り組み、医薬品が適正使用されるようにする活動が、以前より増して強く求められている。
新MR認定制度に注目を
――その状況に26年4月に実施予定のMR認定制度改革は応えられるか。
現行制度までは、教育研修にしても、認定証の更新手続きにしても製薬企業が手取り足取り行ってきた側面があり、MRには研修での課題をクリアさえすればいいというような受動的なところがあった。そこを制度改革では、MR自身が主体的に自律的に資質を維持、向上できる仕組みにしていく。
認定センターでは、MRに求められる資質として▽「知識」(医薬品の適正使用、薬物療法の向上に貢献できる専門家としての知識)▽「技能」(科学的根拠に基づき医薬品の品質、有効性、安全性の情報を提供、収集、伝達できる技能)▽「倫理観」(患者志向に基づいた誠実な態度、法令、規範、各種ルールを遵守した行動ができる倫理観)――を兼ね備えていることと従来から定義している。
その資質をMR自らが証明できる制度にする。
――具体的には。
新制度では現行のMR認定試験から認定証交付までのプロセスがシンプルになる。受験資格を設けず学生も含め個人が自由に学習し受験できる「MR基礎試験」を実施し、合格すれば合格証が交付される。これに企業が実施する実務教育(導入研修)の「修了認定」が揃うことで「MR認定証」が交付される仕組みになる。
MR基礎試験は「医薬品情報」「疾病と治療」「医薬品産業と倫理・法規・制度」の科目に、年複数回のCBT方式で実施する。1回目が26年7月4~12日、2回目が11月7~15日に全国280の会場で実施する予定である。
企業が行う実務教育は、「倫理」「安全管理」「技能」のほか企業が必要とする科目について、認定センターが策定した実務教育認定基準をベースに企業独自により高い基準による評価を行った上で修了認定を行う。
認定基準で認定の公平性・公正性を担保する。「倫理」「安全管理」についてSBO(到達・行動目標)、行動要件、行動項目を明確化し、それに沿って企業が研修を計画・実施し、行動項目を具体的にできるかの成果確認までを行う。
さらに、認定証を取得して終わりではなく、認定後も継続的に学習し、行動を伴った成果確認を受け続ける生涯学習を制度として強化する。薬剤師国家試験を合格した後も、薬剤師として技術を磨き知識をアップデートしていくのと変わりはない。
――薬学生にとってメリットは。
「MR基礎試験」は受験可能であり、その中の「医薬品情報」「疾病と治療」に関する設問は有利だろう。合格証が就職時の切り札になるとは言えないが、採用選考で考慮されることを期待している。多くの方の受験を待っている。
――メッセージを。
多くの方が志望される薬剤師は患者さんに、MRは医師ら医療従事者にと、活動の対象は異なるが、患者さんのために医薬品の適正使用に資する仕事である点では変わらない。
取り扱う医薬品は作用などが難しいものも増えており、臨床実習を経験され、専門的に学んだ薬学を患者のために生かすマインドを持つ薬学生は、企業に求められている。MRはやりがいのある職業の一つだと思う。何よりMR経験後のキャリアパスも多様だ。決めた道を進むのも素晴らしいが、いくつもの選択肢に悩み、自ら選んで進むのも素晴らしい人生の歩き方だと思う。