【これから『薬』の話をしよう】薬剤効果に対する時間割引

2019年5月1日 (水)

薬学生新聞


医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 前回は“ビタミンDの服用で呼吸器感染症の発症が3割ほど予防できるかもしれない”という論文結果を取り上げ、その解釈を巡るお話をしました。実際に薬を服用する立場で考えてみると、薬の効果に抱く価値観は人それぞれで異なることが分かります。たとえ予防効果が9割だったとしても、年に1回引くか引かないか程度のかぜのために、ビタミンDを服用する価値はほとんどないと思う人も少なくないわけです。

 さて、前回の論文は「予防効果」を検討した研究でしたが、予防ではなく実際にかぜを引いてしまった状況を想像してみてください。つらい感冒症状に対して、多くの人が「少しでも症状を緩和させたい」「なんとか早く治したい」と思うはずです。

 実は、風邪薬に配合されている抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェンの症状緩和効果はごくわずかなものでしかないことが示されています(PMID:26615034、23818046)。とはいえ、たとえ小さな効果であっても、風邪薬を飲みたいと思うのが一般的な心理かもしれません。あるいはインフルエンザに罹った時を思い出してみてください。症状の持続を半日~1日程度短縮させるだけの抗インフルエンザ薬の効果(PMID:24718923)に大きな期待を抱いていることも多いでしょう。

 つまり人間には、疾病の発症リスクを3割ほど低下させるという予防的な効果よりも、ごくわずかな症状緩和効果を重視しやすい傾向があるということです。これはまた、将来起こり得ることよりも、今この瞬間に起こっていることを重視するということに他なりません。

 こうした価値観の形成には、時間割引(time discounting)という人間の心理傾向が影響しているものと考えられます。時間割引とは、報酬が手に入る時点が今からどれくらい先かによって、その報酬の価値を割り引く傾向のことです。例えば、今すぐに1万円もらえるのと、1年後に1万0100円もらえるのでは、どちらを選ぶでしょうか。多くの人が前者を選択するかと思いますが、これはつまり1年間で100円分の価値を割り引いているということです。

 この「報酬」を「効果」に置き換えてみたらどうでしょう。例えば、ワクチンによる将来的な疾病予防効果よりも、今現在起こりうる副反応リスクを重視してしまう、あるいはベンゾジアゼピン系薬剤の長期服用に伴う有害事象リスクよりも、今現在の不眠改善効果を重視してしまうというのも、価値の時間割引という心理傾向を踏まえればよく理解できると思います。



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